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スリリングで興味深い業績がわかり易く [読書]

時を刻む.gif 「時を刻む湖― 7万枚の地層に挑んだ科学者たち ―」、中川 毅、岩波書店、2015年
 ISBN978-4-00-029642-7
 
 湖とは若狭三方五湖の一つ、水月湖には75mに上る堆積物がある。ボーリングすると縞模様が明瞭に有り、スライスして顕微鏡で観察、測定する。各層は厚さ0.6~1.2mmでこれを観察するのは至難の業と思われる。

 縞模様は1年に1層づつ規則正しく堆積したもので、「年縞(ねんこう)」と呼ばれる。7万年分が堆積。これほどの年縞が確認できる場所は世界的にもほとんど例がないとのこと。

 水月湖はこの年縞ができる特異な環境である。その背景は、そして形成されるメカニズムは・・・

 年縞堆積物は通常、過去の環境変遷を詳細に復元する目的で使われるのだそうだが、日本では本研究先駆者の北川浩之研究員は地質学的な「ものさし」を作ることを決断したと言う。

 年代の推定には現在では標本に含まれる炭素の放射性同位体14(C14)を測定する。その技術は1940年代後半から50年初頭にかけて確立されたと。同位体の定量には生物残渣を対象にするのだが、年代を確定するためのものさしが必要であり、本書にはわかり易く説かれている。

 ちなみに、樹木の年輪では現在最長12,550年前まで、C14半減期の測定限界は5万年前までだそうだ。それ以上のものさしが必要になれば新たな手法が開拓されなければならないのか?

  このような仕事はとても一人で出来るものでは無く、著者は世界中の研究者の参加を募り、研究資金の助成を受けるなど素晴らしい働きと感激する。海外では研究助成システムが有るのが羨ましくもある。

 ノーベル賞の理系分野に数学・地学が無いのは、業績が産業界への寄与が期待できないとでもいった背景があるのだろうか。地学・歴史学の分野で貢献した業績を顕彰する世界的なシステムが有るなら、著者達は値すると思う。既に顕彰されているのかどうか寡聞にして知らない。

 各分野でこのような研究業績がわかり易く説かれ、「理科離れ」の傾向が緩和されることを望みたい。

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