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続いて医療問題:医療の選択 [読書]

医療の選択.jpg 「医療の選択」、桐野高明、岩浪新書 赤版1492、2014年
 ISBN978-4-00-431492-9

 目次が比較的充実しているので、スペースを取るが掲載する。

  はじめに
 第1章 二つの選択肢
アメリカで起きていること/イギリスの失敗/国民は日本の医療に不満足?/目指していく社会/二つの未来像とその選択
  選択の論点
 第2章 危うい国民皆保険制度
沢内村の挑戦/医療費はタダがよいのか/国民皆保険/医療費はどう決められるのか/増えつづける医療費/健康保険の財政事情/医療費抑制の流れ/市場主義医療のパラドックス/手痛い歴史の教訓/問われる価値観
  選択の論点
 第3章 超高齢社会に立ち向かう
超高齢社会の到来/老いるということ/日本の病院/限界のある治療の有効性/医療の専門化と分断化/治療後の生活を支える生活モデル
  選択の論点
 第4章 新しい治療法を目指して
新しい治療法を受け入れる/薬が変える病気の治療/医薬品は完全ではない/日本の医薬品と医療機器/日本の医療産業
 選択の論点
 終 章 医療の選択
医療のあり方を選択すること/医療のあり方を改革すること/負担をするということ
   おわりに
 引用・参考文献

 表題を見た限りでは受診に際しての選択すなわち、医療機関や治療方針などに関する本かと思ったが、目次・見出しを見ると医療制度が主たるテーマである。

 日本の医療は患者負担、アクセス、質において先進諸国でもトップクラスで、これらを総合すれば最高の医療が提供されていると評価できる。
 しかし、国民の医療に対する満足度は最低クラスである。その原因は他国の制度を知らないからだと思う。もう一点はこれまでに十分甘やかされてきたので、政府もいわゆる「医療費の高騰」で不満が充満している。

 このような中、代表的な現行医療制度として、米国と英国の制度を取り上げている。
 米国の制度は市場主義が徹底していて、医療も産業の一つと政府も国民も見なしている。その結果医療技術の進歩も世界のトップであるが、医療費も施療側の言い放題であり、低所得者層では必要な医療が受けられず、中所得者層でも住宅ローンより医療による破産が増えている。また、医師の破産も増えているそうだ。
 薬価も製薬会社が自由に設定できる。
 医療保険は基本的には民間の保険会社と契約するが、契約した疾病にしか保険はおりない。軽度な病気まで含めると膨大な保険金になる。

 これに対し、英国では医療費は基本的には無料である。医療を受けるためにはあらかじめ登録した近医にかかり、多くの場合はそこで解決するが、高度な医療が必要な場合はそこから紹介されて初めて病院で受診できる制度である。日本のようには医療機関が乱立しているわけでもないので、検査や手術を受けるにしても待機期間が長くなる。
 (ただし、全額自費負担するなら直接に、自由診療している医師・病院で受診する事ができる。)

 医療費が無料と聞けば北欧諸国が有名だが、この国々は医療だけでなく介護、大学までの教育費も無料である。そのためには収入の6割以上の税金がかけられているという。
 この制度は人口もほどほどで、それなりの収入があってはじめて可能なことかも知れない。また、受益者だけでなく従事者にも十分な手当が必要である。我が国のように教育者や医療・介護従事者に対する手当が不十分では不可能。

 第2章からは保険制度、高齢化社会、新しい医療について取り上げて論じている。

 最終章で以上を総括して、「医療と社会保障を持続していくためには、あらゆる知恵を働かせて、負担は増加するが医療の質を落とさず、かつ必要な医療が受けられる体制を維持していくことが重要となる。非常に大きな政治的課題だが、これを克服しなければ、戦後日本が国として取りつづけてきた医療の体制は持続できない。負担を増加させていくということは、これまでよりも「大きな政府、高い税金」に賛成するということである。しかし、それはつねに「小さな政府、安い税金」という誘惑にさらされるなかで進めていかなければならない政策だ。
 税金を安くして、医療費は各人が責任をもって支払っていくのがよいという考え方は、病気というものを知らない健康な人々にはとても魅力的に聞こえるだろう。『病気にかかっているわけではないし、年金ももらえない自分たちが、なぜこんな高額の保険料を毎月支払わなくてはならないのか?』という疑問もわいてくる。しかし、社会保障を削減し、医療を自己責任にするという選択をした結果、人と人とが分断化され、社会から連帯意識が消失し、恵まれた少数の人々と恵まれない多くの人々との間に著しい格差が生まれる。そのような未来を、われわれ日本人は望んで選択するだろうか。
 弱者や恵まれない人々が悲惨な目に遭わないような社会をつくろうとしてきたのが、戦後の 。日本社会であった。そのことを、若い世代の人たちにも理解し継承してもらうことが、今後の医療や社会保障の持続のために必須の条件であろう。」と閉じている。

 すなわち、米国式に一握りの人々のための医療制度が望ましいのか?
 TPPでは米国の医療者・保険会社から大きな圧力がかかっている。

 医療保険の自由化に伴って幾つかの保険会社が参入していて、任意の医療保険が提供されている。しかしながら、誰もが指摘していないところだが、それらは我が国の国民皆保険制度とそれに伴う医療の公定価格制度があってはじめて安い保険料が設定されているということだ。健康者の視点を推し進めて皆保険制度を廃止すればたちまち診療価格は上昇し、当然民間保険料も高騰する。

 米国では医療保険会社のCEOなどへ高額の退職金が支払われるのに、被保険者への還付は難癖をつけて削減されたり、拒否されたりしているという。

 どのような制度を望むのか国民の選択が求められている。
 どのような選択であれ、政府と国民の信頼関係が重要であると本書でも指摘している。

 消費税率を上げた分は社会福祉に当てると言っているがいささか怪しい。政府が変わるたびにころころ変わる。

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